て三面記事を取りに行った時以来、今度が初めてである。その途中から今日までは百中九十九パーセントまでヨタとインチキのカクテル記事で押通して来たものであるが……。そのお蔭で色々な失策《エラー》を連発して、方々で首種《くびだね》が尽きるくらい馘《くびき》られ続けながらノコノコサイサイ生き永らえて来たものであるが、今度という今度ばっかりはそうは行かない。ヨタやインチキが直ぐに暴露して、身に報《むく》いて来る世の中の恐ろしさを既に知り過ぎるくらい知っているばかりじゃない。人間、喰えるか喰えないか……最後の米櫃《こめびつ》を、取上げられるか、られないかのドタン場まで来ると、こうも真剣になるものかと、我ながら感涙に咽《むせ》ぶばかり……。
なんかと浅ましい感傷《センチ》に陥りながら吾輩は、その記事を持って、眼立たないように編輯室に這入った。モトの我輩なら昨日《きのう》の山羊髯の手紙を見ただけでイキナリ編輯室に乗込んでノサバリ返っている筈だが、今度は正式に社長から入社の許可を受けるまで、客分のつもりで応接室に腰を据えて、恭倹《きょうけん》己《おのれ》を持《じ》するつもりだ。これも吾輩のセンチかも知れ
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