《まか》不思議な存在だ。
誰でも新聞紙を拡げて見ればわかるだろう。どんなにケチな新聞社でも編輯長となると、生優《なまやさ》しい脳髄や精力では勤まるものでない。第一面の海外電報、東京電話の早し遅し、捏造《ねつぞう》記事か与太《よた》記事かを見分けるためには、猫の眼玉みたいに変化する世界列強のペテンのかけ合いから、インチキとヨタでゴッタ返す政局の裏表、瓢箪鯰《ひょうたんなまず》の財界の趨勢、銀行会社の金庫のカラクリ仕掛まで看破していなければならない。第二面の地方硬派、鼻糞《はなくそ》記事の軽重、大小を見分けるためには鶏《とり》の餌箱《えばこ》式の県予算、賽《さい》の河原《かわら》式土木事業の進行状態、掃溜《はきだめ》式市政の一般、各市町村のシミッタレた政治分野、陣笠代議士、同じく県議、ワイワイ市議、それらの動静、財産、趣味、道楽まで知っていなければならない。又、お次の所謂《いわゆる》三面、軟派記事の取扱い方については、その新聞の読者の智識、生活程度の各層の神経の過敏程度は申すに及ばず、ヒネクレまわる思想傾向の機微から、全国一般の社会悪の種類、程度、各地方の風俗習慣、又は、ダラシのない支局
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