卓子《ナイトテーブル》の上に置くや否や、支配人は最早《もう》一刻もたまらないという風に、お辞儀をしてコソコソと出て行った。吾輩は博多湾内の光景を今一度見まわした。成る程夕方に違いない。曇っているもんだから、夕景色が朝景色に見えたんだ。
何ともいえない不安な気持に包まれた吾輩は、取る手遅しと玄洋日報の夕刊を引き開くと、下らない海外電報が、薄汚ない活字で行列している。東京の新聞の切抜らしいのが特に大きく載せてあるのが浅ましい。吾輩はチョットの間《ま》憂鬱になった。昨日《きのう》門司で質に置いた懐中時計が、矢張り五時頃を指しているだろうと妙な悲哀《センチ》に囚《とら》われながら、第二面を開くと、アッと驚いた。マン中の目貫《めぬき》の処に、お玉の写真がデカデカと載っている。
箱師のお玉捕えらる[#見出し文字]
今朝博多駅にて[#小見出し文字]
警察を愚弄した手紙と[#ゴシック体]
密輸宝石数万円携帯[#ゴシック体]
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兼ねて東海道線を荒しまわって東京と大阪の警察に散々御厄介をかけていた箱師のお玉(二七)という
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