顔を見るなり、刑事に気付かれないように、口を二度ばかりパクパクやってみせた。そのまんま何とも云えない悲痛な微笑を浮かべると、又モトの通りにうなだれて行ったというんだがね。その口の動かし方をアトから考え合せてみると、たしかに二度ともサイアク、オククウと云っているに違い無いと思われた。だもんだから、これは何かのヒントじゃないかって戸田の奴が電話で云ってよこしたんだ。日比谷の自動電話を使って……」
「フーン。しかし夫れだけじゃ特種にならないね」
「だからさ。ヒントなら何のヒントだか、これから考えなくちゃならないんだが、俺ぁトテモ苦手なんだ。こんな事が……しかも此の……サイアク……オククウは星田が村井に伝えてくれと云う意味で、特に村井と心安に戸田の顔を見かけて云ったことかも知れないんだ。戸田自身にソンナ気がすると云ってよこしたんだがね」
「ウーム。サイアク、オククウ……逆様には読めないし……と……サイアク。ダイマク。カイサク。ナイカク。……トクキウ。ホクフウ……わからねえよ。ハハハ……」
「誰か君、星田の懇意な奴を知らないかい。親類でも何でもいい。妻君のほかに……」
「そりゃあイクラでも居るだ
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