「チェッ。だから君に聞いているんじゃないか。彼奴《あいつ》が居ると星田の事は尻ベタのホクロまで知って居るんだが、きょうに限って居ないもんだから編輯長《おやじ》がプンプン憤《おこ》って居るんだ」
「村井はモウ事件に引っかかって居るんじゃ無いかな」
「ウン。そいつもあるね。何とも知れねえ。しかし取りあえず困った問題が一つ在るんだ。そいつに弱ってるんだ」
「何だ……その問題ってのは」
「○○《ヒミツ》だぜ……絶対に……」
「……むろん……見せ給え。その紙を……」
「フーン。……サイアク……オククウ……何だいコリャ……」
「……シッ……編輯長《おやじ》にも伏せて在るんだ。戸田から掛かって来た電話を俺が聞きながら書き止めたんだ。何でもコイツが特種中の特種らしいんだ」
「フウン。どうして……」
「ウン、それがね。本社《うち》の戸田と三田村がきょうの警視庁詰でね。新米の三田村を案内して遣る積りで裏口の方へまわると、例の正岡と刑事二三人に囲まれてコッソリ自動車から降りて来る若い奴の顔を見るなり探偵小説好きの三田村が大きな声で……アッ……星田さんが……と叫んだものだ。するとその声を聞き付けた星田が戸田の
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