でも彼でも此の疑いを晴らさなければトテモたまらない……と云った気持にフラフラと此処まで追い遣られて来た彼自身ではなかったか……。
そう思い思い彼は依然として、躊躇するでもなく、しないでもないフラフラとした恰好で店の中へ這入《はい》ったのであった。
「いらっしゃいまし」
と云うイガ栗頭の中小僧の愛嬌顔と、縞の筒ッポーが彼の眼に映った。しかし空ッポになった彼の頭は、それ以外の事を何一つ印象し得なかった。其処で其の中小僧にドンナ事を尋ねたかすら記憶しないまま又もフラフラと店を出た。
「イイエ。その方は御自分で新聞記者とは仰有《おっしゃ》った様でしたが……主人がお相手を致して居りましたので、よくわかりませんでしたが、別にお言伝も何もありませんでしたよ。御座いましたら主人が出がけに申残して行く筈ですが。ハイ。お客様のお買物について何か二言三言お尋ねになりましたきりで、その椅子に腰を卸して煙草を召あがりながら、表の通りをボンヤリと眺めてお出でになる様でしたが、そのままユックリユックリ出てお出でになったんですが……」
と云う雄弁な中小僧の言葉を片耳に残しながら……。
……村井は吾々を撒く為に
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