さが熱鉄のように彼の掌《てのひら》に感ぜられると同時に、彼は或る素晴らしいヒントを得たのであった。サイアク、オククウの謎が解けたのであった。
彼は星田が此頃、極端な西鶴の崇拝者になっていることを知っていた。ことに其の中でも「桜蔭比事」の研究に没頭していて、○○館発行の古い西鶴全集の下巻を振りまわしながら「……ドウダイ津村君……最近、和洋を通じてドエライ発達を遂げた犯罪と探偵小説のトリックのどの一つでも、此の中の何処からか探し出すことが出来ると思うんだがね」と怪気焔を揚げていたことを、昨日の事のように記憶して居たのであった。だから彼は、殺人の嫌疑を受けた星田が、警視庁の裏手で自動車から降りた時にヤット気付いた最後的なヒントを、絶体絶命の思いで村井に伝えて貰おうとした。その物凄いセツナイ努力を、こうした思いもかけぬ方法で、彼自身に受け取ることが出来たものであったろう。
彼は慌てて外套《がいとう》の襟を直した。帽子を冠り直した。タッタ今出て来た新聞社の玄関から、受付の女に咎《とが》められるのも構わずに、一気に階上へ駈け上ると、何度も来たことのある調査部の扉《ドア》をたたいて中に這入った。
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