です。
ああ恐ろしい。人間一人の生命《いのち》が五十年として、私は二百人分の生命《いのち》を取っている訳です。それを思うと私は生きている気持はしません。しかし人の命を助ける役目をする薬で雀の命を取るようないたずら坊ちゃんほどに悪い人間ではありません。
良い者は御褒美《ごほうび》を受け、悪いものは助けられるのが当り前です。私は悪い事をした罰に今から直ぐに死んでしまいます。あなたもすぐに私の真似をなさい。左様なら、太郎さん」
と云ううちに、紳士は掌《てのひら》に残っていた残りの一粒の丸薬を口に入れました。と思うと、そのままあと形も無く消え失せて、あとには三粒の赤い丸薬が地びたの上にころがっているばかりでした。
太郎さんは夢を見たように驚いて、暫くはボンヤリその三粒の丸薬を見詰めておりましたが、やがて気がつくと、自分もいよいよ死ななくてはならぬのかと思うと、情なくて恐ろしくて、身体《からだ》がガタガタふるえて来ました。恐る恐る丸薬を拾って家《うち》へ駈け込んでみますと、いつの間にかお祖父《じい》さんがお帰りになって、火鉢にあたっておいでになります。
太郎さんは紙に包んだ三粒の赤い丸
前へ
次へ
全8ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング