って一発放しましたが、中《あた》りませんでした。又一発――又一発――とうとう三粒共赤い丸薬を撃ちましたが、中《あた》りません。雀は知らぬ顔をしてチュンチュンと囀《さえず》っています。
太郎さんは急に丸薬が惜《おし》くなりました。もしやそこらに落ちていはしまいかと門の外へ来てみますと、そこには一人の老人の乞食がいて、三粒の赤い丸薬を汚い黒い掌《てのひら》に乗せて不思議そうに見ております。
太郎さんは喜ぶまい事か、
「あっ、その丸薬は僕のだ。返しておくれ」
と云いました。
乞食は鬚《ひげ》だらけの顔を挙げて太郎さんをジロジロ見ましたが、やがてニヤリと笑って、
「坊ちゃん。この薬は今しがた私がここにいるときに天から降って来たのを私が拾ったのです。あなたに上げる訳に行きません」
と云う中《うち》に汚い手で握り込んでしまいました。
太郎さんは、何という意地の悪い乞食だろうと思って腹が立ちました。どうかして返してもらおうと思いましたが、しかたがありませんから、お祖父様《じいさま》の丸薬を盗んだ事を話しますと、乞食はさもさも驚いたという顔をしました。
「それは坊ちゃん、大変ですよ。この丸
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