ただならぬ人声のドヨメキが自分の周囲に起ったので、福太郎はハッと吾に返った。
見ると眼の前には※[#「┐」を全角大とした、屋号を示す記号、334−2]《カネ》サの半纏を着た源次が俯伏せになっていて、ザクロのように打ち破《わ》られたイガ栗頭の横腹から、シミジミと泌み出す鮮血の流れが、ラムプの光りを吸取りながらズンズンと畳の上に匐《は》い拡がっているのであった。
左右を見廻すと近くに居た連中は皆《みんな》、八方へ飛退《とびの》いた姿勢のまま真青な顔を引釣らして福太郎の顔を見上げていたが、中には二三人、顔や手足に血飛沫《ちしぶき》を浴びている者も居た。
福太郎は茫然となったまま稍《やや》暫らくの間そんな光景を見廻していたが、やがてその源次の枕元に立ちはだかっている自分自身の姿を、不思議そうに振り返った。
見ると両腕はもとより、白い浴衣の胸から肩へかけてベットリと返り血を浴びていて、顔にも一面に飛沫《しぶき》が掛っているらしい気もちがした。そうしてその右手には、いつの間に取出したものか、背後《うしろ》の押入の大工道具の中《うち》でも一番|大切《だいじ》にしている「山吉《やまきち》」製の
前へ
次へ
全46ページ中44ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング