けの空となったり、又はなつかしい父親の横顔になったり、母親の背面《うしろ》姿になったりして、切れ切れのままハッキリと、入れ代り立ち代り浮かみあらわれて来るのを、瞼《まぶた》の内側にシッカリと閉じ込めながら、凝然《じっ》と我慢していたのであった。
ところがその悪酔いが次第に醒めかかって、呼吸が楽になって来るに連れて福太郎は、自分の眼の球の奥底に在る脳髄の中心が、カラカラに干乾《ひから》びて行くような痛みを感じ初めた。それに連れて何となく、瞼が重たくなったような……背筋がゾクゾクするような気持になって来たので、吾ともなくウスウスと眼を開いてみると、その眼の球の五寸ばかり前に坐っている、誰かの背中の薄暗がりを透して、今までとは丸で違った、何とも形容の出来ない気味の悪い幻影《まぼろし》が、アリアリと見えはじめているのに気が付いたのであった。そうしてその幻影《まぼろし》が、福太郎にとって全く、意外千万な、深刻、悽愴《せいそう》を極めた光景を描きあらわしつつ、西洋物のフィルムのようにヒッソリと、音もなく移りかわって行くのを、福太郎はさながら催眠術にかけられた人間のような奇妙な気持ちで、ピッタリと
前へ
次へ
全46ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング