こり》だそうで、年が年中暗黒の底に埋れている坑夫達にとっては、いかにも道理至極であり、涙ぐましい儀式のように考えられているのであった。
 今運び出されているのは旧坑口に近い保存炭柱《はしら》の仕事場《キリハ》に掛っていた勇夫《いさお》という、若い坑夫の死骸であった。むろん福太郎の配下《うけもち》ではなかったが、目端《めはし》の利くシッカリ者だったのに、思いがけなく落盤に打たれてズタズタに粉砕されたという話を、福太郎はタッタ今、通り縋《すが》りの坑夫から聞かされていた。又、呼んでいる声は吉三郎《きちさぶろう》という年輩の坑夫であったが、この男は嘗《かつ》て一度、この山で大爆発があった際に、坑底で吹き飛ばされて死んだつもりでいたのが、間もなく息を吹き返してみると、いつの間にか太陽のカンカン照っている草原に運び出されて、医者の介抱を受けている事がわかったので、ビックリしてモウ一度気絶したことがあった。だからそれ以来、一層深くこの迷信に囚《とら》われたものらしく、死人があるたんびに駈け付けると、仕事をそっち除《の》けにして、こうした呼び役を引き受けたので、仲間からはアノヨの吉[#「アノヨの吉」
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