くとう》の丸柿|親爺《おやじ》は、娘の無事な顔を見ると泣いて喜んだが、手錠をかけられた男を見ると血相を変えて掴みかかろうとした。
「……おのれッ。キ……貴様はテキ屋の竜公《たつこう》……。コ……此奴《こいつ》は私の借屋《しゃくや》に居やがって……家賃を溜めて……デ……出て行きやがらないんです。柔道《やわら》で私を投飛《なげと》ばしやがったんで……お……おまけに俺《わし》の娘を……チ畜生ッ……ウ……怨み重なる……どうするか見ろッ」
 山金の親方が遮り止めて腰をかけさした。穏やかに事情を話して聞かせた。
 禿頭《とくとう》は万平に向って手を合せてペコペコした。娘の手を引いて万平の前に連れて来てお礼を云わせた。
 娘は真赤になって、嬌態《しな》を作り作り万平の前に来て、振袖を重ねた。いい匂のする桃割髪《ももわれ》を下げた。
 万平は白粉《おしろい》の下から汗をブルブルと流した。ズッコケかかった昼夜帯を後ろ手で抱え上げ抱え上げ滅法《めっぽう》矢鱈《やたら》にお辞儀を返した。
 皆思わず笑い合った。
「アハハハハハ」
「ワハハハハハ」
 手錠をかけられた男が恐ろしく面《つら》を膨らました。



底本:「夢野久作全集10」ちくま文庫、筑摩書房
   1992(平成4)年10月22日第1刷発行
※材木屋の屋号が「やまかわ」(269−9)から、「山金」(284−3、285−9)に変わっているが、三一書房版「夢野久作全集6」でも同じであったため底本のママとした。()内は底本のページと行数。
入力:柴田卓治
校正:kazuishi
2001年7月24日公開
青空文庫作成ファイル:
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