を見ると臓腑《はらわた》が腐っちゃって仕事に身が入らなくなるんだ。アンナ作りごとばかり見てた日にゃ、世の中の事がミンナ嘘に見えて来らあ。ケッ……忌々《いめいめ》しい野郎だ」
「まあ。そんなに云うもんじゃないよ。サア、万ちゃん御飯《おまんま》お上り。お腹が空《す》いたでしょう」
「飯ばかり喰らいやあがって畜生めえ。一体《いってい》イツ時分だと思ってやんだ……今を……」
「それあネエ。一幕見のつもりだってもね。ツイ出られなくなるもんですよ。ねえ」
「チッ……嫌に万公の肩ばかり持ちやがる。手前がソンナだから示しが附かねえんだ」
「だって万ちゃんなんかイツモ影日向《かげひなた》なんかしないんだから……タマにゃあねえ」
「ええ。この野郎。何が影日向だ。材木置場《おきば》[#ルビは「材木置場」にかかる]に行って見ろ。何も片付いてやしねえじゃねえか。杉ッ皮を放ったらかしてどこかへ行きやがったに違えねえんだ。ここへ出て来い畜生」
「まあお待ち。お前さんたら馬鹿馬鹿しい。何もそんなに喧嘩腰にならなくたっていいじゃないの。ねえ万ちゃん。いったいどこへ行ったの。そんなに、いい劇《の》がどこかへ掛かってんの」
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