禿頭《はげあたま》は草箒を構えて睨み付けた。
「……馬鹿野郎……あっちへ行け……」
万平は禿頭《はげあたま》の見幕に震え上った。起上りながら後退《あとじさ》りをした。その時に最前の娘が、暗い小格子からチラリと顔を出した。
万平は横ッ飛に逃出した。
万平はお尻を泥ダラケにしたまま、腕を組んで考え考え歩いた。
頭の中が心配で一パイになって、どこをどうあるいたのかわからなかったが、背後《うしろ》から人が笑うような声がしたので、フト頭を上げてみると俎橋の警察の前に来ている事に気が付いた。万平はそこで又、暫く考えていたが、思い切って、警察の前の石段を上って行った。
警察の中では巡査が三人、机越しに向い合って欠伸《あくび》をしていた。万平が這入って来ると三人が三人とも、万平のお尻にベッタリとクッ附いている泥に眼を付けた。
万平は何がなしにピョコピョコとお辞儀をした。
「何か……何しに来たんか……」
「ヘイ、ヘイ、それが……そのお願いに参りましたんで……」
「何だ。喧嘩したんか」
「いいえ。そんなんじゃ御座んせんので実は……その何なんで……」
「何でも良い。云うて見い」
万平は又もヒ
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