私の好きな読みもの
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)天辺《てっぺん》
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こんな事を書くと文学青年じみるが、事実文学青年の古手に相違ないのだから仕方がない。しかも五十近くになって頭の天辺《てっぺん》がコッ禿《ぱ》げて来ているのに恋愛小説なんかアホらしくって読む気になれない。寝がけに読み初めた探偵小説に昂奮しちゃって翌《あく》る朝まで睡むらず、翌る日は終日胃が悪くなって砂を噛むような飯を喰う事が時々あるのだから、嬶《かかあ》が呆《あき》れるのも無理はない。今頃中学校に通ったらキット落第するであろう。
ところで今まで読んだ探偵小説の中でも一番好きなのはポオとルベルである。ほかの作家は読んでいる中《うち》は面白いが、あとで他人に話して聞かせるほど記憶に残らないのに、ポオとルベルの中の気に入ったものだけは、大得意になって話せるくらいアタマに焦《こ》げ附いているから不思議である。二人の作品で、私の記憶に残っているものはソックリそのまま私の哲学であり、詩であり、芸術になってしまっているような気がする。どうしてこんなに惚れ込んだものかわからないが……
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