ほのお》にユラユラと照らされているのです。
 それはほかの屍体と違って、全身のどこにも銃弾のあとがなく、又虐殺された痕跡も見当りませんでした。唯その首の処をルパシカの白い紐で縛って、高い処に打ち込んだ銃剣に引っかけてあるだけでしたが、そのままにリヤトニコフは、左右の手足を正しくブラ下げて、両眼を大きく見開きながら、まともに私の顔を見下しているのです。
 ……その姿を見た時に私は、何だかわからない奇妙な叫び声をあげたように思います。……イヤイヤ。それは、その眼付が、怖ろしかったからではありません。
 ……リヤトニコフは女性だったのです。しかもその乳房は処女の乳房だったのです。
 ……ああ……これが叫ばずにおられましょうか。昏迷《こんめい》せずにおられましょうか。……ロマノフ、ホルスタイン、ゴットルブ家の真個《ほんとう》の末路……。
 彼女……私は仮りにそう呼ばせて頂きます……彼女は、すこし後《おく》れて森に這入ったために生け捕りにされたものと見えます。そうして、その肉体は明らかに「強制的の結婚」によって蹂躙《じゅうりん》されていることが、その唇を隈取っている猿轡《さるぐつわ》の瘢痕《あと
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