》でも察しられるのでした。のみならず、その両親の慈愛の賜《たまもの》である結婚費用……三十幾粒の宝石は、赤軍がよく持っている口径の大きい猟銃を使ったらしく、空包に籠《こ》めて、その下腹部に撃ち込んであるのでした。私が草原《くさはら》を匍《は》っているうちに耳にした二発の銃声は、その音だったのでしょう……そこの処の皮と肉が破れ開いて、内部《なか》から掌《てのひら》ほどの青白い臓腑がダラリと垂れ下っているその表面に血にまみれたダイヤ、紅玉《ルビー》、青玉《サファイヤ》、黄玉《トパーズ》の数々がキラキラと光りながら粘り付いておりました。
六
……お話というのはこれだけです。……「死後の恋」とはこの事をいうのです。
彼女は私を恋していたに違いありませぬ。そうして私と結婚したい考えで、大切な宝石を見せたものに違いないのです。……それを私が気付かなかったのです。宝石を見た一|刹那《せつな》から烈《はげ》しい貪慾に囚《とら》われていたために……ああ……愚かな私……。
けれども彼女の私に対する愛情はかわりませんでした。そうして自分の死ぬる間際に残した一念をもって、私をあの森まで
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