半ばかり距たっている鉄道線路の向う側だったろうと思いますが、不意にケタタマシイ機関銃の音が起って、私たちの一隊の前後の青草の葉を虚空《こくう》に吹き散らしました。そうしてアッと驚く間もなく、その中《うち》の一発が私の左の股《もも》を突切って行ったのです。
 私は一尺ばかり飛び上ったと思うと、横たおしに草の中へたおれ込みました。けれども、それと同時に「傷は股《もも》だ。生命《いのち》に別状は無い」と気が付きましたので、草の中に尻餅《しりもち》を突いたままワナワナとふるえる手で剣を抜いてズボンを切り開くと、表皮と肉を抉《えぐ》り取られた傷口へシッカリと繃帯《ほうたい》をしました。そのうちにも引き続いて発射される機関銃の弾丸は、ピピピピピと小鳥の群れのように頭の上を掠《かす》めて行きますので、私は一と縮みになって身を伏せながら、仲間の者がどうしているかと、草の間から見まわしました。こんな処で一人ポッチになるのは死ぬより恐しい事なのですからね。
 しかし私の仲間の者は、一人も私が負傷した事に気づかないらしく、皆銃を提げて、草の中をこけつまろびつしながら向うのまん丸い森の方へ逃げて行くのでした。
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