ら》のまん中に浮き出しておりました。この辺の森林という森林は大抵鉄道用に伐《き》ってしまってあるのに、この森だけが取り残されているのは不思議といえば不思議でしたが……その森のまん丸く重なり合った枝々の茂みが、草原の向うの青い青い空の下で、真夏の日光をキラキラと反射しているのが、何の事はない名画でも見るように美しく見えました。
 ここまで来るともうニコリスクが鼻の先といってよかったので、私共の一隊はスッカリ気が弛《ゆる》んでしまいました。将校を初め兵士達も皆、腰の処まである草の中から首を擡《もた》げて、やっと腰を伸ばしながら提げていた銃を肩に担ぎました。そうして大きな雑草の株を飛び渡り飛び渡りしつつ、不規則な散開隊形を執《と》って森の方へ行くのでしたが、間もなく私たちのうしろの方から、涼しい風がスースーと吹きはじめまして、何だか遠足でもしているような、悠々とした気もちになってしまいました。先頭の将校のすぐうしろに跟《つ》いているリヤトニコフが帽子を横ッチョに冠《かぶ》りながら、ニコニコと私をふり返って行く赤い頬や、白い歯が、今でも私の眼の底にチラ付いております。
 その時です。多分一露里
前へ 次へ
全41ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング