へ連れて行かれた。
憲作はそこに拡げられたダイヤ入りの指環のケースをあれかこれかと撰《よ》って見せた。
徳市は上《うわ》の空《そら》で唯うなずいてばかりいた。
令嬢が近附いて来て徳市の前に拡げられた指環のケースを見た。その中の一つを欲しそうにした。
憲作は最大のダイヤを撰り出して徳市にさし付けた。
令嬢の眼はそのダイヤに注いだ。怪しく光った。
徳市は憲作の手からその指環を取り上げてもとの通りケースに納めた。令嬢の前に押し進めた。
どうぞお撰り下さい……
私共はあとで宜《よろ》しゅう御座います……
憲作と久四郎は妙な顔をした。
貴婦人と令嬢は云い知れぬ感謝の眼付きをした。
令嬢は恥じらいながら辞退した。
まあ……
どうぞお構いなく……
あの……
貴婦人も感謝に満ちた表情で云った。
ま……
恐れ入ります……
イイエ……どう致しまして……
徳市は幾度も手を振った。
私のは贈り物にするのですから……
ちっとも構いません……
さあどうぞ……
憲作と久四郎は別々に苦笑しながら三人の様子を見ていた。
令嬢は辞退しかねた。嬌態を作っ
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