当らず触らずの八百長式のものしか書けない位ならば、私は結局、駄目な人間だ……とも思いましたので、かように行きなり放題に筆を進める気になったのです。
 前置きが大層長くなりましたが、これも私の「乱歩論」の重要な一部です。
 どうぞ深く咎《とが》めずに読んで下さい。

       ◇

 私は、乱歩氏の作品の全部を通読している訳ではありませぬ、ただ好きなものを繰り返し繰り返し読んでいるだけで、発表された年代や順序なぞは、調べてみようと思った事もありませぬ。これは乱歩氏の作品に限らず、ほかの小説でも同様で、調べること嫌いの私は「猟奇」とか「探偵」とかいう名目すらも、ツイこの五六年前までは、赤の他人の名前と同様に、通りすがりに記憶しているくらいの事でした。
 その後に私は、友達の処に在る雑誌の中で、偶然に乱歩氏の「心理試験」を読んだのですが、興味に釣られて一気に読まされたにも拘《かか》わらず、その内容に対しては、一種の失望を禁じ得ませんでした。
「日本人は直ぐに西洋人の真似をするのだナ」
 と思いながら「エドガー、アラン、ポー」「エドガワ、ランポ」と心の中で繰り返して、何とも云えない物足りな
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