関係を充分に承知していながら「乱歩論」を書けという猟奇社の注文は、とりも直さず文筆上の重刑でなくて何でしょう。……精神的な火渡り刑でなくて何でありましょう。
乱歩氏が「久作論」を書かれるのは何でもないにしても、私の方はナカナカそうは行きませぬ。「売名」「軽薄」「増長」の誹《そし》りを免れない事は明白で、猟奇社はつまるところ面白半分に、横綱とトリテキを組み合わせようとしているのじゃないか知らん……猟奇的な悪趣味から、私を引っぱり出そうと試みているのじゃないか知らん……というような一種の遠慮とヒガミを兼ねたような反撥感から、私はいつまでも返事を出さずにおいたのでした。猟奇の編輯者には相済まぬ事ながら、わざと黙殺を希望していたのでした。
ところが最近に猟奇社から再度の催促状を受け取って、ジット眺めておりますと、又、何となく気が変わって来ました。以上述べて来ましたような私の態度が、何となく卑怯なもののように感じられて来ました。先輩の機嫌を窺うと同時に、自分の世間的立場を傷《きずつ》けまいとするような当世思想に囚《とら》われていた私の考えが、アリアリと見え透いて来たように思いました。そうして
前へ
次へ
全14ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング