のであの男はカアッとなってしまったのでしょう。玲子さんが三階へ上ると間もなくあの女の寝室へ忍び込んで、何をするかと思ううちに、一気に刺殺《さしころ》してしまったのです。つまり天罰を下したつもりなのですね。ですから僕は直ぐにあの男の背後から近付いて不意打ちの当て身を一つ喰わして電気|炬燵《こたつ》のコードでしっかりと縛って、あの寝室の隣りの標本室の大机の足にしっかりと縛りつけて、外から鍵を掛けておいたのです。あの大机の上には鳥の剥製を作る硝子《ガラス》の道具や、劇薬毒薬の瓶を山のように積み上げておきましたから、あの男は息を吹き返しても身動き一つ出来ないでしょう。……そのほかのものは殺人の現場の塵一本、動かしてないのですから、今にも警察の人が来て調べたら何もかもホントウのことがわかるでしょう。ただ一つ惜しいことにあの手紙は焼き棄ててしまってあるようですが、しかし中味の文句は僕がハッキリ記憶《おぼ》えておりますから大丈夫です。玲子さんも記憶《おぼ》えているでしょうね」
玲子は唇の色までなくしたまま中林先生の顔を見上げてうなずいた。
中林先生も一層、微笑を深めてうなずいた。
「それならばイ
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