が毎日毎日あの女の行く先を探っている中《うち》に、あの女のアトを僕と同じように跟《つ》けまわしている一人のルンペンみたような男がいるのに気がつきました。そうしてツイこの四五日前のことです。そのルンペンがある酒場で酔っ払った時に……俺はモウ近い中《うち》に大金持になるんだぞ……と口走るのを聞きましたから、僕はハッとしました。イヨイヨ危ないナ……と思いましたから直ぐに大沢先生に何もかも打明けて、家《うち》を出て行って頂いたのです。心臓がもうかなり弱っていられるのを無理にそうして頂いたのです」
何もかも忘れて聞き惚れていた玲子はハッと気がついて、心からうなずいた。
中林先生の深い深い親切と智慧に、驚いて、感心してしまいながら、その乱れた髪毛《かみ》の下に光る凜々《りり》しい瞳の光りを見上げていた。
「けれども玲子さん。お父さんのことは心配しなくともいいです。大沢先生が信州へ行かれたのは嘘なのです。先生は今東京の大学病院に這入ってコカイン中毒の治療をしておられるのですよ。そのうちに元気になって帰っておいでになるでしょう」
「まあッ……ホント……」
玲子は思わず中林先生の肩にかじりついた。
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