すからね。早くおやすみなさい。明日《あした》は日曜ですからユックリと寝んねして、眼が醒めたら、あなたのお好きな中林先生の処へ遊びに行っていらっしゃい。……ね……そうして先生に今一度あなたに教えに来て下さるようにアナタから頼んでいらっしゃい。ね。ね。……さあさあ。それを楽しみにしてお寝《やす》みなさい。寝間着一つで風邪を引きますよ。サアサア。もう何も心配なことはないのですから……」
玲子は思いがけなく変った母親の、親切この上もない態度に絆《ほだ》されたらしく、なおもシクシク泣き続けていたが、その中《うち》にヤットの思いで立上った。涙を拭き拭き、
「おやすみなさい」
と言って顔を上げたが、その時にはもうマダム竜子は寝室に入ったらしく、入口のカーテンが微かに揺らぎ残っているだけであった。
玲子はまた急に悲しくなりながら、サルーンの電燈を消して、ギシギシと鳴る階段を手探りの足探りにして三階の方へ上って行った。
それから何分か、何十分か……ホンノちょっとばかり三階の寝床の中でウトウトしたと思ううちに突然、下の二階あたりから消魂《けたたま》しい物音が聞こえて来たので、玲子はフッと眼を見開
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