…あの……よくわかりませんでしたけど、四十か五十くらいの髯《ひげ》をボオボオと生やした怖い顔の人……」
「ホホホホ。まあ呆れた人ねえ玲子さんは……あなたはねえ。きっと雑誌の小説ばかり読んでいるお蔭で、あたまが変テコになっていんのよ。だからコンナ手紙を貰うと、すぐに探偵小説みたいなことを考えて、夜中に起きたり何かして心配すんのよ」
「……………」
「この手紙はねえ。玲子さん。このごろ流行《はや》る幸運の手紙とおんなじに誰か物好きな人間がイタズラをするために出したものなのよ。その証拠にウチの大沢という名字がどこにも書いてないじゃないの。大抵のうちに当てはまるように書いてあるじゃないの。東京の郊外で主人が留守|勝《がち》で、奥さんが後妻で、娘があって、犬が飼ってある家《うち》だったら、そこいらにイクラでもある筈なんですからね。そんな家《うち》の娘にこの手紙をことづけて、中味を娘に知らしたら家庭悲劇を起させるくらい何でもないのですからね。そうしてその娘が本気に母親の悪いことを信じて、家《うち》を飛び出すか何かしたら、この手紙を出した悪戯《いたずら》の目的が達するのよ。この頃はソンナ悪戯を道楽に
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