犬の王様
夢野久作
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)妃《きさき》
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むかしある国に独り者の王様がありました。家来がどんなにおすすめしてもお妃《きさき》をお迎えにならず、お子様もない代りに一匹の犬を育てて毎晩可愛がって、「息子よ息子よ」とよんで、毎日この犬を連れては山を歩くのを何よりの楽しみにしておいでになりました。
そのうちに王様はちょっとした病気で亡くなられましたが、その御遺言には「俺が死んだら息子を王様とせよ。そうしたら俺が妃を迎えなかったわけがわかるであろう」との事でした。この国の家来は皆忠義者ばかりでしたから、変な事とは思いましたが、とうとう王様の「息子」の犬を王様にきめて、いろいろの政《まつりごと》は今までの総理大臣がする事になりました。国中の人間はこのお布告《ふれ》を見ると大騒ぎをして、お祝いの支度を始めました。
その犬は狸のようなつまらない汚い犬でしたが、いよいよお祝いの当日になりますと、金襴の着物を着て王様のお椅子に着いて、大勢の家来や人民にお目見得をさせる事になりました。
お目見得に来た人民の中に一人の婆さんがいて、一匹の
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