三毛猫を抱いて犬の王様の前に出てお辞儀をしました。三毛猫は驚きました。忽ちお婆さんの手から飛び出して、
「フーッ」
と言うとそのまま一目散に山の方へ逃げ出しました。犬も何で知らぬ顔をしましょう。金襴の着物を着た儘王様の椅子を飛び降りて「ワンワンワンワン」と吠えながら一所懸命に追っかけました。
御家来や人民共の騒ぎは又大変でした。中にも総理大臣は騎兵を繰り出して真先に立って馬を躍らせながら、何処までもとあとをつけて行きました。
山奥に来ると向うに一つの洞穴があって、その中に犬が馳け込むのが見えました。
大臣と家来共は馬を降りて洞穴の中へ入って行きますと、やがて一つの見事な宮殿に来ました。その宮殿のお庭に一人の気高い姿をした女と一人の美しい青年が話をしておりました。
大臣は近寄って丁寧にお辞儀をしながら、
「今ここへ一匹の犬が猫を追っかけて来はしませんでしたか」
と尋ねました。
「猫は来ませんが、犬ならばそこに来ております」
と気高い女は青年《わかもの》を指しました。
「エッこの方が」
と大臣は気絶する位驚きました。
女は顔を真赤にしながらこう申しました。
「今こそ本当の
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