だと吐《ぬか》すんだ」
「失敬な……」
 と云いさして私は唇を噛んだ。気がつくと二人はいつの間にか工科前の終点で電車を降りて、往来のまん中で立話をしているのであったが、そういう私の顔をジッと見ていた大塚警部はチョット四囲《あたり》を見まわすと、黄色い白眼をキラキラ光らせながら、一層顔を近付けた。
「君の手で確かな手証《てしょう》を挙げてくれんか……エエ?……推定でない具体的な奴を……そいつを新聞に書く前に、僕の手に渡してくれれば、スッカリタタキ上げて君の方の特別記事《とくだね》に提供するがね。君の手から出たタネだという事も、絶対秘密にするのは無論の事、将来キット恩に着るよ。あの記事が虚構《うそ》となったら君の新聞でも困るじゃろう」
 私は唸《うな》り出したいほどジリジリするのを押えつけて、無理に微笑した。
「ウン……いずれ編輯長と相談して研究して見よう」
「ウン、是非頼むよ。ドウセイ時枝の娘に間違いはないんだから……話がきまったら電話をかけて呉給《くれたま》え。屍体でも何でも見せるから……ウンウン……」
 大塚警部は一人で承知したように、形式だけ片手をあげると、クルリと私に背中を向けて
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