とるんだ。……というのは……こいつも絶対に書いては困るがね。この記事を夕刊の佐賀版で見た時枝のおやじ[#「おやじ」に傍点]が、昨夜《ゆうべ》のうちに佐賀から自動車を飛ばして来て、今朝《けさ》暗いうちに僕をタタキ起したんだ。人品のいい、落付いた老人だったので、僕もうっかり信用して、ちょうどええところだから大学の解剖室へ行って、お嬢さんの屍体を見て来て下さい。貴下《あなた》のお子さんときまれば、解剖をしないでそのまんま、お引き渡しをしてもええからというので、巡査を附けてやった訳だ」
「なるほど……それから……」
「ところがそのおやじが、轢死当時の所持品や何かを詳しく調べた揚句《あげく》に、娘の屍体を一眼見ると、これはうちの娘では御座らぬと云い出したもんだ」
「……フーン……その理由は……」
「その理由というのはこうだ。……うちの娘は元来勝気な娘で、東京へ行って独身で身を立てる、女権拡張に努力するという置手紙をして出て行った位で、そんな不品行《ふしだら》をするような女じゃない。新聞の写真もイクラカ似とるようだが、ヨシ子では絶対にありませぬ。家出したのは四年前じゃが、チャンとした見覚えがあるか
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