社代表が二人、そうした辛苦艱難《しんくかんなん》を経てヤッと高知市に到着すると、板垣派から非常な歓迎を受けた。現下の時局に処する玄洋社一派の主義主張について色々な質問を受けたり議論を吹っかけられたりしたが、頭山満はもとより一言も口を利かないし、奈良原到も、今度はこっちから理窟を云いに来たのではない、諸君の理窟を聞きに来ただけじゃ……と睨み返して天晴れ玄洋社代表の貫禄を示したのでイヨイヨ尊敬を受けたらしい。
 それから二代表は毎日毎日演説会場に出席して黙々として板垣一派の演説を静聴した。そうして何日目であったかの夕方になって二人が宿屋の便所か何かで出会うと、頭山満は静かに奈良原到をかえりみて微笑した。
「……どうや……」
「ウム。よさそうじゃのう。此奴《こやつ》どもの方針は……国体には触《さわ》らんと思うがのう、今の藩閥政府の方が国体には害があると思うがのう」
「やってみるかのう……」
「ウム。遣るがよかろう」
 と云って奈良原到は思わず腕を撫でたという。実は奈良原としてはブチコワシ仕事の方が望ましかった。土佐の板垣一派の仕事を木葉微塵《こっぱみじん》にして帰るべく腕に撚《より》をかけて
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