氏が、
「折角会えたのに惜しい事をした」
とつぶやいた。頭山先生は又も股倉へ手を突込みながら、
「フフン。あいつは詰らん奴じゃ」
まだある。
これは少々グロを通り越しているが、頭山翁の真面目を百パーセントに発揮している話だから紹介する。頭山翁が玄洋社を提《ひっさ》げて、筑豊の炭田の争奪戦をやらせている頃、福岡随一の大料理屋|常盤《ときわ》館で、偶然にも玄洋社壮士連の大宴会と、反対派の壮士連の大宴会が、大広間の襖一枚を隔ててぶつかり合った。
何がさて明治もまだ中途|半端《はんぱ》頃の血腥《ちなまぐさ》い時代の事とて、何か一《ひ》と騒動初まらねばよいがと、仲居《なかい》、芸妓《げいぎ》連中が心も空にサービスをやっているうちに果せる哉《かな》始まった。
合《あい》の隔《へだ》ての襖が一斉に、どちらからともなく蹴開《けひら》かれて、敷居越しに白刃《しらは》が入り乱れ、遂には二つの大広間をブッ通した大殺陣が展開されて行った。
大広間に置き並べられた百|匁《め》蝋燭《ろうそく》の燭台が、次から次にブッ倒れて行った。
そうして最後に、床の間の正面に端座している頭山満の左右に並んだ二つ
前へ
次へ
全180ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング