始めたが、卵というものはイクラ空腹でも左程沢山に啜れるものでない。十個ばかり啜る中《うち》に、二人とも硫黄臭いゲップを出すようになると、卵売りは大いに儲けるつもりで、道傍《みちばた》の枯松葉を集めて焼卵を作り、二人にすすめたので又食慾を新にした二人は、したたかに喰べた。
ところでそこまでは先ず好都合であったがアトが散々であった。そこからまだ半道も行かぬ中《うち》に二人は忽ち鶏卵中毒を起し、猛烈な腹痛と共に代る代る道傍に跼《かが》み始めたので、道が一向に捗《はかど》らない。併《しか》し強情我慢の名を惜しむ二人はここでヘタバッてなるものかと歯を噛みしめて、互いに先陣を争って行くうちに、やっと人家近い処へ来たので二人とも通りかかった小川で尻を洗い、宿屋に着くには着いたが、あまりの息苦しさに、ボーオとなって腰をかけながら肩で呼吸《いき》をしているところへ宿屋の女中が、
「イラッシャイマセ。どうぞお二階へお上りなされませ」
と云った時には階子段を見上げてホッとタメ息を吐《つ》いたという。
それからその翌日の事。二人とも朝ッパラからヘトヘトに疲れていたので、宿屋からすすめられるままに馬に乗っ
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