》って来た時に、自分《わし》と松浦愚の二人はドッチが先か忘れたが神殿に躍り上っていた。アッと云う間もなく二人で髭神主を殴り倒おし蹴倒おす。松浦が片手に提げていた醤油樽で、神主の脳天を食らわせたので、可愛そうに髭神主が醤油の海の中にウームと伸びてしまった。……この賽銭《さいせん》乞食の奴、神様の広告のために途方もない事を吐《ぬ》かす。皇室あっての神様ではないか。そういう貴様が神威を涜《けが》し、国体を誤る国賊ではないか……というたような気持であったと思うが、二人ともまだ十四か五ぐらいの腕白盛りで、そのような気の利いた事を云い切らんじゃった。ただ、
『この畜生。罰《ばち》を当てるなら当ててみよ』
と破《わ》れた醤油樽を御神殿に投込んで人参畑へ帰って来たが、帰ってからこの話をすると、それは賞められたものじゃったぞ。大将の婆さんが涙を流して『ようしなさった。感心感心』と二人の手を押戴《おしいただ》いて見せるので、塾の連中が皆、金鵄《きんし》勲章でも貰うたように俺達の手柄を羨ましがったものじゃったぞ。ハハハハハ」
人参畑の婆さんがいつまで存命して御座ったか一寸《ちょっと》調査しかねているが
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