。
「独逸《ドイツ》の医学も底が見えて来ましたね。たとえばインシュリンの研究なんか……」
なぞと引っ冠《かぶ》せて来るから肝を潰してしまう。その肝の潰れた博士を選んで法螺丸は、政界の有力者の処へ腎臓病のお見舞に差し遣わすのだから深刻である。
禅宗坊主が寄附を頼みに来ると法螺丸曰く、
「禅宗は仏教のエキスみたいなものですな。面壁九年といって、釈迦一代の説法、各宗の精髄どころを達磨《だるま》という蒸溜器《ランビキ》に容《い》れて煎《せん》じて、煎じて、煎じ詰める事九年、液体だか気体だかわからない。マッチで火を点《つ》けるとボーッと燃えてしまって、アトカタも残らない。最極上のアルコールみたいな宗旨が出来上った。ところで、それは先ず結構としても、その最極上のアルコールをアラキのまま大衆に飲ませようとするからたまらない。大抵の奴は眼を眩《ま》わして引っくり返ってしまう。それから中毒を起して世間の役に立たなくなる。物を言いかけても十分間ぐらい人の顔をジイッと見たきり返事をしないような禅宗カブレの唐変木《とうへんぼく》が出来上る。又は浮世三|分《ぶ》五|厘《りん》、自分以外の人間はミンナ影法師ぐ
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