取したに違いない。資本主義文化が体現するところの、虚無思想、唯物思想の機構の中に、血も涙も無い無良心な、獣性丸出しの優勝劣敗哲学と、功利道徳の行き止まり状態を発見したに違いない。そうして王政維新後、滔々たる西洋崇拝熱と共に鵜呑《うの》みにされて来た、こうした舶来の思想に侵犯され、毒化されて行きつつ在る日本の前途を見て、逸早《いちはや》く寒毛樹立したに違いない。
当時の藩閥と、政党者流の行き方は、正にこの西洋流の優勝劣敗哲学、唯物一点張りの黄金崇拝式功利道徳の顕現であった。外国の政治組織を日本の政体の理想とし、権利義務式の功利道徳、法律的理論を以《もっ》て日本の国体を論じ合いつつ上下共に怪しまなかった時代であった。
その中に、藩閥にも属せず、政党の真似もしない玄洋社の一派は、依然として頭山満を中心として九州の北隅に蟠《わだか》まりつつ、依然として旧式の親分|乾分《こぶん》、友情、郷党関係の下に、国体擁護、国粋保存の精神を格守しつつ、日に日に欧化し、堕落して行く藩閥と政党を横目に睨《にら》んで、これを脅威し、戦慄せしめつつ、無けなしの銭《ぜに》を掻き集めては朝鮮、満蒙等の大陸的工作に憂
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