」
頭山満氏黙々として箸《はし》を置いた。
「モウ良《え》え。お茶……」
頭山翁の逸話は数限りもない。別に一冊の書物になっている位だからここにはあまり人の知らないものばかりを選んで書いた。あんまり書き続けているうちに、諸君の神経衰弱が全癒《なお》り過ぎては却《かえ》って有害だからこの辺で大略する。
次は現代に於ける快人中の快人、杉山茂丸翁に触れて見よう。
[#改ページ]
杉山茂丸
杉山|茂丸《しげまる》なる人物が現代の政界にドレ位の勢力を持っているか、筆者は正直のところ、全然知らない。どんな経歴を以て、如何なる体験を潜りつつ、あの物すごい智力と、不屈不撓《ふくつふとう》の意力とを養い得て来たかというような事すら知らない。恐らく世間でも知っている人はあるまいと思われるので、筆者が知っているのは、そこに評価の不可能な彼……杉山茂丸の真面目《しんめんもく》がスタートしている事と、同時に、そうであるにも拘《かかわ》らず、その古今の名探偵以上の智力と、魅力とをもって、政界の裡面を縦横ムジンに馳けまわり、馳け悩まして行く、その怪活躍ぶりが今日《こんにち》まで、頭山満翁と同様
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