谷医学博士、福岡随一の無鉄砲有志、古賀壮兵衛氏、現|釜山《ふざん》日報主筆、篠崎昇之助氏、その他、水茶屋《みずぢゃや》券番《けんばん》の馬賊五人組芸者として天下に勇名を轟かしたお艶《えん》、お浜、お秋、お楽、等々その中心の正座が勿体なくも枢密院顧問、八代大将閣下であっただけに極めて厳粛な箸《はし》の上げ卸《おろ》しで、話題は八代閣下の松葉の食料法を武谷博士、林駒生氏が固くなって謹聴し、記者として列席していた筆者がシキリにノートを取っている……といった場面であったように思う。
 ところへ表の扉《ドア》がガラリと開いて、湊屋の仁三郎が這入って来た。春雨に濡れた問屋張《といやばり》の傘を畳んで、提げて来た中鯛を五六匹土間に投出したスタイルは、まことに板に附いたもので、浴衣の尻を七三に端折《はしお》った素跣足《すはだし》である。親友の林駒生氏が振返って声をかけた。
「おお。湊屋じゃないか。この寒いのに風邪を引くぞ」
 湊屋は頬冠《ほおかむり》を取って手を振った。
「イカンイカン。これは医学博士でも知らん。自動車に乗る人間には尚更わからん。日本人一流、長生きの法たい」
「今その長生き話が出とると
前へ 次へ
全180ページ中153ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング