ているか判然《わか》りませんでしたが、イヨイヨ押詰まった師走《しわす》の二十日頃にこの男の処へ身の上相談に行きますと、相変らず煤《すす》け返った面《つら》で古道具の中に座っておりましたが、私の顔をジイッと見ながら、黙って左の掌《て》を出せと申します。何を云うかわからん、気味《きび》の悪いところがこの男のネウチで、啣《くわ》え煙管《ぎせる》のまま私の掌《てのひら》を見ておりましたが、
『これはナカナカ運のいい手相じゃ。長崎へ行けばキット運が開けると手筋に書いてある』
 と云います。私は呆れました。
『馬鹿|吐《こ》け。長崎へ行く旅費がある位なら貴様の処へ相談に来はせぬ』
『まあ待て。そこが貴様の運のええところじゃ。運気のお神様は貴様の来るのを待って御座った』
 と云ううちにチョット出て行きますと、瞬く間に五十両の金を作って来たのには驚きました。
『実は俺も生れてから四十五年、ここへ坐っ居《と》ったが、イヨイヨこの家《うち》へ居ると四十六の年が取れん位、借金の下積《したづみ》になっとる。ちょうど女房と子供が、実家《さと》の餅搗《もちつき》の加勢に行《い》とるけに、この店をば慾しがっとる奴の
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