…ウワアーイというただけの話で……。
 ……ヘエ……その生胆売りの話ですか。どうも困りますなあ。アンマリ立派な話じゃ御座いませんので……あの時のような遣切《せつ》ない事はありまっせんじゃった。今まで誰にも云わずにおりましたが……懲役に遣られるかも知れませんので……。決して悪気でした事では御座いませんじゃったが、人間の生胆《きも》と枕草紙《かよい》は警察が八釜《やかま》しゅう御座いますケニなあ……。
 もっとも友達の生胆を売ったチウたて、ビックリする程の事じゃ御座いません。生胆の廃物利用をやって見た迄の事だす。前のバクチの一件の続きですが……私が二十三か四かの年の十二月の末じゃったと思いますケニ、明治二十年前後の事だしつろうか。
 前にも申しました通りバクチは親父の生きとる中《うち》は大幅《おおぴら》で遣れませんでしたが、死ぬると一気に通夜の晩から枕経《まくらきょう》の代りに松切坊主《まつきりぼうず》を初めましたので、三年経たぬ中《うち》に身代がガラ崩れのビケになってしもうた。それを苦にした母親が瘠せ細って死ぬる。折角来てくれた女房までもが見損のうたと吐《こ》いて着のみ着のままで逃げてし
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