持てに持てて高価《たか》い魚がアラカタ片付く頃になりますと、もうヘトヘトになって、息が切れて、走ろうにも腰がフラ付きます。太陽《てんとう》様が黄色《きんな》く見えて、生汗《なまあせ》が背中を流れて、ツクツク魚売人《さかなうり》の商売が情無《なさけの》うなります。何の因果でこげな人間に生れ付いたか知らん。孫子の代まで生物《なまもの》は売らせまいと思い思い空《から》になった荷籠《めご》を担いで帰って来ます。
 それでも若い中《うち》は有難いもので、その晩一寝入りしますと又、翌る朝は何とのう生魚《さかな》を売りに行きとうなります。

 バクチは親父《おやじ》が生きとる中《うち》は遣りませんでしたが、死ぬると一気に通夜の晩から初めまして、三年経たぬ中《うち》に身代をスッテンテレスコにして終《しま》いました。それを苦に病んで母親も死ぬる……というような事で、親不孝者の標本《おてほん》は私で御座います。ヘイ。
 今では身寄タヨリが在りませぬので、イクラ働いても張合いが御座いまっせん。それでも世界中が親類と思うて、西洋人《いじん》の世話までしてみましたが、誰でも金《かね》の話だけが親類で、他事《あと
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