とる。浅蜊《あさり》貝の腐ったゴト口開けとる奴《と》ばドウするケエ』
『まあまあ。そう云うな。一人息子じゃけに、念入れとこう』
この時ぐらい親の恩を有難いと思うた事は御座いません。親というものが無かったならこの時に私は、ほかの連中と一所に棺箱《はこ》へ入れられて、それなりけりの千秋楽になっておりました訳で……。
『その通りその通り。助けてくれい助けてくれい』
と呼ぼうにも叫ぼうにも声は出ず、手も合わせられませぬ。耳を澄まして運を天に任かせておるその恐ろしさ。エレベータの中で借金取りに出会うたようなもので……ヘエ……。
それでもお蔭様で生き上《あが》りますと又、現金なもので、折角、思い知った親の恩も何も忘れて博奕は打つ……××はする……。
……ヘエ。その××ですか。これはどうも商売の奥の手で、この手を使わぬ奴は人気が立たず。魚類《さかな》が売れません。まあ云うてみればこの奥の手を持たん奴は魚売の仲間《かず》に這入らんようなもので……ヘヘヘ。
その頃、私はまあだ問屋《とんや》の糶台《ばんだい》に座らせられません。禿頭《はげ》の親爺《おやじ》がピンピンして頑張っておりましたので…
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