すと、盥一面に山のごと泡が浮きます。まるで洗濯石鹸《あらいしゃぼん》を揉むようで……その水を汲み換え汲み換え泡の影が無《の》うなるまで揉みました奴の三杯酢を肴《さかな》にして一杯飲もうモノナラその美味《うま》さというものは天上界だすなあ。喰い残りを掃溜へ捨てた奴を、鶏《とり》が拾いますとコロリコロリ死んでしまいますがなあ。
 ……ヘエ。私は四度死んで四度とも生き返りました。四度目にはもう絶望《つまらん》ちいうて棺桶へ入れられかけた事もあります。私の兄貴分の大惣《だいそう》ナンチいう奴は棺の中でお経を聞きながらビックリして、ウウ――ンと声を揚げて助かりました位で……イエイエ。作りごとじゃ御座いまっせん。この理窟ばっかりは大学の博士《はかせ》さんでもわからん。ヘエ。西洋の小説にもそのような話がある……墓の下から生上《いきあが》った……ヘエ。それは小説だっしょうが、これは小説と違います。正直正銘シラ真剣のお話で……。

 御承知か知りませんが、鰒に中毒《あた》ると何もかも痲痺《しびれ》てしもうて、一番しまい間際《がけ》に聴覚《みみ》だけが生き残ります。
 最初、唇《くち》の周囲《ぐるり》がム
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