るからに気味《きび》の悪い恰好をしておりますが大抵の鰒好《ふくくい》が『鰒は洗いよう一つで中毒《あた》らん。しかしナメラだけはそう行かん』と申します。そうかと思うと沖から来る漁夫《りょうし》なぞは『甘い事云いなさんな。ナメラが最極上《いっち》利く』と云う者も居ります。
 そこで私共の放蕩《あくたれ》仲間が三四人申合わせてそのナメラを丸のままブツ切りにして味噌汁に打込んで一杯|飲《や》る事にしましたが、それでも最初はヤッパリ生命《いのち》が惜しいので、そのナメラの味噌汁をば浜外れの蒲鉾小舎《かまぼこごや》に寝ている非人に遣ってみました。
『ホラ……余り物《もん》ば遣るぞ』
 と云うて蒲鉾小舎の入口に乾《ほ》いて在る面桶《めんつう》に半分ばかり入れてやりましたので、非人はシキリに押頂いておりましたが、暫くしてから行ってみますと、喰うたと見えて面桶が無い。本人もまだ生きて煙草を吸うている様子です。そこで安心して皆で喰べましたが、美味《うも》う御座いましたなあ。ソレは……トテモ良《え》え気持に酒が廻わってしまいました。
 それから帰り途《しな》にその非人の処を通りかかりましたが、酔うたマギレの
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