けんけん》安かア安かア安かア。両拳《りゃんこ》両拳両拳。うわアリァリァ安か安か安か』
と糶《せ》るうちに肩を組んで寄って来た売子の魚屋《やつ》が十|尾《コン》一円二十銭で落いたとします。その落いた魚屋《やつ》の襟印を見て帳面に『一円五十銭……茂兵衛』とか何とか私共一流の走書きに附込んだ魚《やつ》を泄《さら》うように引っ担いで走り出て行きます。払いの悪い奴なら一円七十銭にも八十銭にも附けておきますので、後で帳面を覗きに来ても一円三十銭やら二円五十銭やら読み分ける事は出来まっせん。学問のある人の書くような読み易い字で、帳面をば附けたなら私共の商売は上ったりで……。つまり何分《なんぶ》かの口銭《こうせん》を取った上に、数える時に儲ける。帳面に附ける時に又輪をかける。独博奕《ひとりばくち》の雁木鑢《がんぎやすり》という奴で行き戻り引っかかるのがこの市場商売の正体で、それでもノホホンで通って行くところが沽券《こけん》と申しますか、顔と申しますか。しかもその詐欺《インチキ》と盗人《ぬすっと》の附《つけ》景気のお蔭で、品物がドンドン捌《さば》けて行きますので、地道に行きよったら生物《なまもの》は腐
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