う男が女に化けて、女という女が男に化けて飲み放題の踊り放題の無礼講が三日も続くんだぞ。謝肉祭《カーニバル》の上を行くんだ。巡査や兵隊までが仮装《ドンタク》と間違《まちげ》えられる位、大あばれに暴れるんだぞ。そんな馬鹿騒ぎの出来る町が日本中のどこに在るか探してみろ。それでいて間違いなんか一つもないんだ。翌る日になると酔うた影も見せずにキチンと商売を初めるんだ。絹ずくめの振袖でも十両仕立ての袢纏《はんてん》でもタッタ一度で泥ダラケにして惜しい顔もせずに着棄て脱ぎ棄てだ。三味線知らぬ男が無ければ、赤い扇持たぬ娘も無い。博多は日本中の諸芸の都だ。町人のお手本の居る処だぞ。来るなら来い。臓腑《はらわた》で来い。大竹を打割って締込みにして来い……。

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 ここに紹介する博多児《はかたっこ》の標本、篠崎仁三郎君は、博多|大浜《おおはま》の魚市場でも随一の大株、湊屋《みなとや》の大将である。近年まで生きていた評判男であるが正に名僧|仙崖《せんがい》、名娼|明月《めいげつ》と共に博多の誇りとするに足る不世出の博多ッ子の標本と云ってよかろう。但
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