女と結婚して、貴女をエタイのわからない不幸な運命に陥れるに忍びません。
どうぞ幸福に幸福に暮して下さい。
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[#地から2字上げ]淋しい社会主義者より
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友口愛子様
この手紙は直ぐに焼いて下さい。貴女の御親切に信頼します。
[#ここで字下げ終わり]
この手紙を読み終ると直ぐに、これは一刻も猶予ならんと思って立上りかけた……が……又思い直して腰を落付けた。この手紙を持って来た愛子の態度が、あんまり不思議なので……自分に好いている男を一人死刑にするような遣り方なのに……正直者の愛子がソンナ残酷な事をする筈はないと思ったので、念のために今一度訊問してみる気になった。社会主義者一流の計略じゃないかしらんという疑いも起ったからね。
「ふうむ。愛子さん……」
「ハイ……」
「あんたはこの手紙の主《ぬし》に心当りがあるのかね」
ビックリしたように眼をパチパチさせた愛子は丸髷を軽く左右に振った。
「いいえ。ちっとも存じません。何を書いてあるのか読めないものですから。字があんまり細かくて……」
俺は唖然となってしまった。
「ナアンダ。まだ読んで
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