索の方針が八方|塞《ふさ》がりになる訳だから、話が一番最初のところへ逆戻りして来る。つまり否《いや》が応でも兇器を発見して、その兇器から当りを付けて行かなければならない事になって来たが、その肝腎要《かんじんかなめ》の兇器が、事件発生以来どうしても見付からないのには弱らされたね。弱るも道理か……犯人はその兇器の文鎮をチャンと仕事場に持って帰って、ニッケル鍍金《めっき》を仕直して、毎日毎日製図の仕事に使っていたんだから、コレ位馬鹿馬鹿しい話はないんだが、こっちはソンナ事とは夢にも知らない絶体絶命だ。頼みの綱はコレ一つ……兇器さえ見付かればこっちのもの……東京市中を持ちまわって、一軒一軒|虱潰《しらみつぶ》しに出所を調べてまわっても構わない覚悟で、飯田町一帯の材木置場の隅から隅まで鋸屑《おがくず》を掻きまわしたもんだ。
笑い事じゃないんだよ。一口に迷宮事件というけれども、迷宮事件の裏面にはコンナ苦労がドレ位積み重なっているか知れないのだよ。しまいには九段下から大手あたりのお堀へかけての大捜索まで遣ってもらったが、古バケツ、底抜け薬鑵《やかん》、古下駄、破れ靴、犬猫や、傘《からかさ》の骨以外
前へ
次へ
全26ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング