、僕を絶対に眠らせまいとしているのです。そうして僕を次第次第に衰弱させて、殺して終《しま》おうと巧《たく》らんでいるのです。
 イヤ。それに違い無いのです。僕は昂奮《こうふん》なんかしていません。キットそうなのです。駄目です駄目です。僕の空想なんかじゃありません。……この室《へや》に居ると僕はキット殺されます。……どうぞ助けると思って僕を他の室に……エッ……室が満員なんですって? そんなら野天《のてん》でも構いません。どうぞどうぞ後生ですから、僕を別の室に……。
 ……何ですか。崑崙茶の由来ですか。……貴女は御存じ無いのですか。
 ヘエ。崑崙茶がドンナお茶か見当が付けば、中毒を解くのは何でもない。……成る程。植物性の昂奮剤は色々あるから、話をよく聞いて見ない事には見当の付けようがない。……そんなものですかねえ。……そんなら訳はないでしょう。その留学生が持っている「茶精」を取上げて分析してみたら直ぐに判明《わか》るでしょう。
 ……成る程。隠している処がわからないと困る……それもそうですね。キット魔法使いみたいな奴に違い無いのですからね。……そればかりじゃない。注射で眠っている奴を途中で
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